とある教員の恋愛事情
10月1日
10月1日日曜日。
その日は朝から厚い雲が空を覆っていた。
「今日、夕飯食べにうち来なよ。和食と洋食どっちがいい?」
松永からメッセージが届いた。
昨日は帰りが遅かっただろうに、もう起きたんだな…
昨日は丘中の体育祭だった。丘中では縦割りの4クラス対抗で優勝を競う。若葉達の1組は準優勝、松永の3組は優勝した。
そして、体育祭の夜は居酒屋を貸し切り、先生みんなで慰労会だ。
「リレーは熱い展開だったな。あそこで点差ついたのが決定的だった」
「かなり僅差でしたね。アンカーよく追いついたと思います」
乾杯の後は、早速体育祭の話で盛り上がる。やはり、生徒が一生懸命取り組む姿に教員も心を動かされるのだ。ひとしきり体育祭の感想を言い終えた後は、それぞれにお酌に行ったり、近くの席の先生と話したり自由だ。
若葉はちらっと松永を見た。3組の先生方に囲まれている。優勝チームだけに、ガンガン酒を飲むつもりらしい。
「……中原先生、飲んでます?」
そう言ってビール瓶を持って現れたのは、3年1組の渡辺先生だった。渡辺先生は若葉より少し年上の男性教員だ。すでに顔が赤い。
「あ、ありがとうございます」
ビールを注いでもらう。若葉も渡辺先生に注ぎ返す。
「いやー、準優勝でしたけど1組も頑張りましたよね。俺、教室で生徒たちと悔し泣きしましたもん。先生には、応援団でお世話になりました」
「あ、いえいえ。大した事は出来ませんでしたが、私も勉強になりました」
「そんな事ないです。中原先生のピシッとした指導、立派でしたよ。応援団の生徒たちも憧れてたと思います」
「ええ?そうですかね…?」
先輩から思わぬ所を褒められ、若葉は照れた。
「あれー?何なに?渡辺先生ったら中原先生と2人きりで話しちゃってあやしー!奥さんに言っちゃうぞー?」
後ろから浜中先生が現れた。
「ちょっ…!違いますって!浜中先生もここ座ってください!全っ然あやしい話じゃないですからっ」
渡辺先生は慌てて言った。渡辺先生の奥さんは元教員で、浜中先生と仲良しなんだそうだ。
まだまだ盛り上がりが冷めないうちにお開きの時間だ。松永達は2次会に行くらしい。若葉は誘いをやんわりと断り、帰路についた。
――今日は郁人と一言も話せなかったな。
若葉も松永も、仕事は仕事、とけじめをつけたいタイプなので、お互い職場では必要以上の会話をしたりしない。
それで良いと思っていたのに、今日は何だか少し寂しい。賑やかな飲み会の後だからだろうか。
先週抱いた三住先生へのモヤモヤも、あれ以来時間が取れず松永に聞けていない。
「……元カノの事なんて、今さら聞いてもいいことないよね…」
夜道で、若葉はひとり呟いた。