とある教員の恋愛事情
7月27日
翌日。
「ねえねえ若葉ちゃん!今日のお昼ここ頼まない?」
養護教諭の浜中先生がチラシを持ってきた。職員室にいた若葉の前に置かれたのは、お洒落なお弁当のチラシだった。浜中先生は私よりもかなり年上だが、私より遥かに女子力が高く、新しいお店やトレンドに詳しい美魔女だ。
「ここ、知り合いのお店なの。美味しそうだし、お野菜多めで身体に良さそうじゃない?」
「へー。いいですね!配達もしてくれるんですか。」
「5個からね。若葉ちゃん入れて4人は決まったから、あと1人なのよ。ねぇ、松永先生、校内にいるはずなんだけど見なかった?」
「あ、教室ですかね。私、探してきますよ」
昨日の会話を思い出し、去年のレポートを持って教室に向かった。しんとした校舎は、騒がしく行き来する生徒を失うと急に老け込んだように見えた。渡り廊下を抜け、2年の教室に着いた。
「松永先生」
「あ、お疲れ様です」
「浜中先生が、お昼お弁当頼みませんかって言ってます。あと、これ昨日話したレポートです。」
「ありがとうございます。今やっと半分くらい書けました。…あ、お弁当決めちゃいますね」
そう言うと松永は向かっていたPCから目を離し、お弁当のチラシを手にとった。
「うん、このチキンライス弁当にします。お金、今渡してもいいですか?」
「はい。」
「じゃあこれでお願いします。」と松永は小銭を渡した。
「…ところで、中原先生は国語の先生ですよね。」
「え、はい…。」
「俺、文章書くのがすごく苦手なんですが、何かコツとかあります?」
「うーん、そうですね…」
言いながら、若葉は松永のPC画面を覗いた。一口に苦手と言っても、その人のタイプによってアドバイスは変わってくるのだ。
「……まず、一つの文が長いです。長くなるほど言いたい事がわからなくなるので、短く切りましょう。あと、PCで打つ文章は切り貼りできるので、こまめに読み返して順番を整えると読みやすい文章になります。」
「……ほぅ…」
「あ、すみません。何だか偉そうに…」
「いえいえ。ありがたいです。それに、中原先生って多分俺と同い年ですよ。俺は、新卒では受からなくて1年臨時教員やってたんです。だから今年5年研なんです。」
「え!そうなんですか。勝手に年上かと思ってました。何年か民間経験でもあって、中途採用だから5年目なのかなって」
「ふっ、よく言われます。30代にしか見えないって」
松永は苦笑した。
松永は顔立ちもなかなかの好青年だ。長身でスタイルもいいから、ジャージでもスーツでも似合う。実は女子生徒に結構人気があるのは若葉も知っている。
そんな松永も、笑うとくしゃっとなるんだな…
ちょっとかわいいかも……
……なんて、どうした、私。
「あ、じゃあお昼になったら降りてきてくださいね」
我に返った若葉は、そそくさと立ち去った。