とある教員の恋愛事情

8月18日


 その日は朝からぐんぐん気温が上がり、午後には警報級の暑さになった。


 若葉が顧問を務める吹奏楽部の大会も無事終わり、結果は目標どおり銀賞を獲得した。

 その後はお盆休みに入り、若葉も帰省して地元の友人と会い、親戚の家に挨拶に行った。
 そして、あっという間に今日である。

「暑い…やる気おきない……」
 若葉はPCに向かいうなだれる。
 今日は溜めていた成績処理や入力作業をしようと決めていた。2学期は行事が多く忙しいため、今のうちにやっておくべきなのだ。

「あの、中原先生何か飲みます?」
「あ、ありがとうございます、手伝います」

 声をかけてきたのは松永だった。給湯室の冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出す。教員から集めたお金で休憩用のコーヒーや紅茶を買ってあり、飲みたい時に各自のカップに入れて飲むスタイルだ。

「何か行き詰まってる感じでしたけど、大丈夫ですか?」
 コーヒーを注ぎながら松永が言った。
「あー、あはは、私成績処理とか入力作業、あんまり得意じゃなくて。計算式もすぐ壊すんです」
「ふはっ、意外ですね」

 ……あ、またあの笑顔だ。


 若葉は胸が高鳴るのを感じた。


「……俺、中原先生って何でもそつなくこなせちゃう人かと思ってました。クールだし」

「え…クール、ですか……?」
 それって褒められているのだろうか。

「意外な一面で楽しいです」
 松永は言葉どおり楽しそうだったから、まあいいか、と思い直した。

「俺、教えましょうか。こう見えても理系なので、多分壊した式も直せますよ」

 そう、松永はこれだけ体育会系の見た目なのに、専門は理科だった。


 じゃあ、と頼み、そこからは松永に教えてもらった。彼は本当に若葉が壊した数式を直してくれ、楽に入力する方法も教えてくれた。
 これで何とか終わりが見えた……と思った時、

 

「……今ここにいる人、ちょっと校長室に集合」


 やや焦った様子の教頭先生が、職員室に声をかけた。
 空気が変わる。こんな風に集合がかかるのは、緊急事態、つまり生徒に関わる事件が起きた時だ。

 若葉達を含め5人程の教員が校長室へ入った。

 
 何だろう…あんまり悪い事じゃありませんように…


 
 全員揃ったのを確認すると、教頭先生が話し始めた。

 「さっき、警察から連絡が入りました。みどり台のショッピングモールで、1年の女子生徒が不審者に遭遇したらしい。現場へは、私と浜中先生で行ってきます。校長先生は学校に残って市教委に報告します。その不審者は逃走したらしいので、すみませんが他の先生方、地域パトロールに出てもらえますか。」


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