とある教員の恋愛事情
という訳で、若葉は北地区のパトロールに出た。
北地区は古くからの住宅街で、とにかく道が狭く込み入っている。一方通行も多い。
若葉は、自分の運転するRV車では厳しいと判断し、仕方なく自転車で出かけた。
これぞ夏、と言わんばかりの積乱雲。
日差しは強く、若葉の腕をジリジリ焦がす。
若葉は、今日に限ってUVカットのパーカーを持ってこなかった事をとても後悔していた。
北地区のパトロールは、自転車で15分程の神社までだ。若葉は自転車だからまだいいが、暑い日も寒い日も歩いて登下校する生徒は本当に偉い。
不審者、というよりこの暑い中誰一人出歩いてなどいなかった。それでも、一応パトロールはした。
神社に着き、自販機でお茶を買う。冷えたお茶は最高に美味しかった。木陰で休憩させてもらい、汗を拭う。
さて帰るか、と神社を出て5分後……
突然の土砂降りに襲われた。
「う、わー…ひどい雨」
若葉は神社に引き返した。その間だけでも全身ずぶ濡れだ。この小さい神社はいつも無人なので、勝手に屋根の下で雨宿りさせてもらう。
「あーあ、カバンもびしょびしょ……」
10分待っても、雨は止む気配がなかった。スマホの雨雲レーダーによると、あと15分で弱まるらしい。それまで待つか…と思った時、
「中原先生!」
と呼ばれた。見ると松永が傘を差して走ってくる。
「中原先生、北地区に自転車で行ったって聞いて。迎えにきました」
松永の車は三列シートのミニバンだった。
「え、松永先生の車大きいですね」
「ああ、部活で荷物載せますから。自転車も取ってきますね。」
若葉を助手席に乗せて、松永は自転車を積み込んだ。
「すみません、シートが濡れちゃって」
「全然平気です。普段ボールとか積んでますから、あんまりキレイじゃなくて悪いんですが」
松永は運転席に乗り、エンジンをかけるかと思ったら一瞬間があった。前を向いたまま、話しだした。
「あの…………変な風に捉えないで欲しいんですけど、中原先生、一回家まで送りますよ」
「え?」
「前に隣町だって言ってましたよね。すぐですから」
「えっ、でも…学校に戻れば自分の車で帰れますし」
「いや、あの……今すぐ着替えた方がいいと思います」
??
…………!!
しばし考えて、松永が何を言おうとしているかわかった。白いTシャツを着ていた若葉は、ずぶ濡れになって下着が透けていたのだ。
慌ててカバンを抱き抱え、胸を隠す。
「……っ、ごめんなさい、お見苦しいところを」
「……いや、あの、なるべく見てないので………こちらこそすみません」
お互い気まずく目を逸らしたまま、車は若葉の家へ向かった。