とある教員の恋愛事情
「中原先生はどんな中学生だったんですか」
「えー?普通でしたよ。
…そうそう、林間学校の時、同じクラスの男の子にみんなの前で告白されて、かなり恥ずかしかった思い出があります。」
「え、めっちゃ青春じゃないですか」
「今では笑えますけど、当時は笑えなかったですねー。帰りのバスも隣の席にされて、冷やかされて。私も前からその子をいいなって思ってたのに、恥ずかしさが勝って断っちゃったんです」
「そっかー、……甘酸っぱいなー」
「…松永先生は、どうなんですか」
「え?」
「過去でも、今でもいいですけど、何かないんですか、恋愛話」
今なら聞ける気がしたので、さりげなく話題を振ってみた。あの、お弁当屋さんの三住先生とはどうだったのだろう。または、今、彼女はいるのか…
「えーと…彼女はここ2年位いないですね。初めて付き合ったのは、高校で同じ剣道部の子でした」
2年……三住先生が辞めたのも2年前である。
「高校生って一緒に帰るのが主なデートじゃないですか。でも、部活終わりで、自分が汗くさくないか気になっちゃって、あんまり近づけなかったのを覚えてます。」
「ふふ、可愛いですね」
「いや、後から聞いたらだいぶ恨まれてました。
あの時、郁人は手も繋いでくれなかったし、ハグもキスもしてくれなかった。本当に好きか分からなかったって……
……いや、こんな所で話す話じゃないですね!
すみません。次のチェックポイントはあの案内板です」
恥ずかしくなったのか松永は話を切り上げてしまった。
その後はたわいない話をしながら歩き、偶然同じ海外ドラマにハマっているとわかった。
「そう、めっちゃわかります!私、毎週木曜の配信、リアルタイムで見ちゃってます!」
「俺も木曜に見てますよ。一度追いついちゃうと、毎週の更新が待ち遠しいですよね。」
そのドラマはゾンビの出てくるサバイバルアクションで、すでに第4シーズンまで出ている。生き残りをかけた人間同士の駆け引きにハラハラさせられる、人気作だ。
――そんな話をしているうちに、コース回りが終了した。
森田に連絡し迎えを待つ。
すると、遠くでゴロゴロと雷が鳴り始め、若葉達の頭上にも黒い雲が広がっていた。
「わ、雨が降りそう」
「本当ですね」
「そういえば、先週は雨の中迎えに来ていただいてありがとうございました」
先週、若葉は家に着くと大急ぎで着替え、髪を乾かし、松永に学校へ送ってもらった。
「いえいえ。…あ、あの不審者、捕まったらしいですよ」
「そうなんですか。」
「生徒も軽い被害で済んでよかったです。特に夏は、変なやつが増えますね…」
「暑いとハイになるんですかね…?心配ですよね」
「俺は中原先生も心配ですけど…」
「え?」
「この間の……アレは、気をつけた方がいいですよ」
……アレ、って
…………あれか!下着の事かっ…///
顔が熱くなる。
「その、サッカー部の部員がよく言ってるんです。……今日は若葉ちゃんタイトスカートだったとか、ブラウスが透けてたとか…。中原先生、キレイだからみんなの注目集めてますよ。俺が言うのも変ですが、トラブルに巻き込まれないように気をつけてくださいね」
気まずいのか、松永は口元に手をやって咳払いをした。
若葉は顔を赤くした。さりげなくキレイだなんて言われたら、お世辞とわかっていても照れる。
そして、年頃の中学生男子がそんな話で盛り上がるのはよくある事だ。言葉を選んで、心配してくれる松永は優しいと思った。