とある教員の恋愛事情
8月24日
「ピロン♪」
下見の翌々日、木曜日の19時半過ぎ。
若葉は早めにお風呂を済ませて、リビングでのんびり夜を過ごしていた。今日は20時から例の海外ドラマの配信があるのだ。
「ん?松永先生…?」
通知は松永からのメッセージだった。同じ学年の先生は皆連絡先を知っているが、松永から個別にメッセージが来たのは初めてだ。
「先日はお疲れ様でした。もう待機してます?長野で買った地ビールが美味しかったので、差し入れしようかと思って」
ドクン、と胸が鳴る。
これから?松永先生が来るって事?
若葉は焦った。もうお風呂も済ませ、パジャマでくつろぎモードになっている。着替え、メイク…とあたふたして返事をできないでいると、もう一度スマホが鳴った。
「もう遅いので、玄関ドアに掛けて帰ります。急にすみません。ドラマ観ながら飲めたらいいかなと思って」
若葉はほっとしてお礼の言葉を打ちこむ。
この前送ってもらった時に、松永の家はすぐ近くだと判明した。歩いて10分もかからない距離だ。
…………やっぱり、すぐ支度して、玄関に出るくらいできますって言えばよかったかな…
少しだけ後悔しながら、玄関の方を気にしていると「カサッ」と微かな音がした。
「!」
鉢合わせに耐えられる格好でないので、一呼吸置いてからそっと玄関ドアを開けた。
ビニール袋に冷えたビールが入っている。
アパートの廊下に出て下を覗くと、夜道を歩く松永らしき人影を見つけた。
「松永先生!」
若葉は思わず声をかけていた。
人影が振り返る。
「差し入れありがとうございます!」
若葉がそう言うと、松永は手を振ってくれた。
部屋に戻った若葉はどこか気持ちがフワフワしていた。
冷えたビールを頬に当て、落ち着かせる。
いつのまにか、松永に惹かれている。
これは、多分、
好きになってしまった……
ドラマの配信が始まった。
松永がくれた地ビールは、幾何学模様のおしゃれなラベルの瓶ビールで、栓を抜くと華やかな香りが広がり、味もあっさりしていて好みだった。
松永先生も、これ飲んで見てるのかな…
ちょっと気を抜くとそんな事を考えてしまい、いまいちドラマに集中できない。
途中でCMが入る。
隣県の大きな遊園地で、このドラマとコラボした脱出ゲームをやっているとの事だった。
――あ、これいいかも…
ここに行こう、と松永を誘う事を思いついた。
若葉の中で、大人になってからの恋愛はスピード勝負だ。元々、好きになったら即行動派。さらに、教員になってからはハードな生活で恋の駆け引きを楽しむ余裕がないので、告白までが早く、付き合ってから仲を深めて行く事が多かった。
「ビールご馳走様でした。CMに出てた遊園地のコラボ企画、よかったら行ってみませんか?」
思い切ってメッセージを送る。
返事は思いのほか早かった。
「いいですね。夏休み明けるとまた忙しくなるんで、今週末に行っちゃいましょうか」
やった!若葉は思わずニヤつく口元を手で覆った。