MINE.

「暑いでしょ、ね」
「ああ、夏ですからね」
「それにほら、会社の近くだし」

ね、と言いながら歩き始める。
そうですね、と松田は答えた。

いつだって松田はわたしを否定しない。

わたしが呉野(くれの)という苗字になったのは八歳の頃だ。

その少し前に一人親の母が他界した。

父には本妻がいたけれど、婚外子だったわたしを引き取ってくれた。おおきな屋敷の、離れに暮らした。

そこでは誰もが母を失って屋敷に居場所のないわたしに優しくて、少し冷たかった。

その中で、松田は一番歳が近かった。

< 3 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop