MINE.
「暑いでしょ、ね」
「ああ、夏ですからね」
「それにほら、会社の近くだし」
ね、と言いながら歩き始める。
そうですね、と松田は答えた。
いつだって松田はわたしを否定しない。
わたしが呉野という苗字になったのは八歳の頃だ。
その少し前に一人親の母が他界した。
父には本妻がいたけれど、婚外子だったわたしを引き取ってくれた。おおきな屋敷の、離れに暮らした。
そこでは誰もが母を失って屋敷に居場所のないわたしに優しくて、少し冷たかった。
その中で、松田は一番歳が近かった。