甘い恋をおしえて


莉帆は、小学生の時に商売の難しさや苦労を知った。
豊かな暮らしも一夜にしてひっくり返ることを身をもって体験したのだ。
自分も店のためになにかできないかと考えて、大学で栄養学を学ぶことにした。
管理栄養士や食品衛生管理者などの資格を取ったり、スポーツ栄養学も学んだ。

卒業してからは香風庵に栄養士として就職し、日本橋の店と莉帆のアイデアで銀座にオープンした和カフェで働いている。
カロリーを徹底的に計算して女性向けの新商品の開発をしたり、季節ごとにカフェのメニューを考えたりして慌しい毎日を送っていた。

そんな莉帆が二十四歳になった時、いきなり宮川佑貴の母の妹、つまり彼の叔母にあたる丸川千紘(まるかわちひろ)が香風庵に姿を見せた。

「お久しぶりね、莉帆さん」
「ご無沙汰いたしております。丸川様」

莉帆は深く頭を下げた。
かつて莉帆や佑貴が通っていたこども茶道教室で講師の助手をしていたのが千紘だった。
仕事としてではなく、あくまで主婦業の片手間のボランティアだったが熱心に指導してくれた人だ。
当時から華やかで美しい人だなと思っていたが、今や丸光銀行の頭取夫人として存在感が半端ない。




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