甘い恋をおしえて
そこまで佑貴が言いきった時、ドアが開いて靖が姿を見せた。
朝の厳しい表情ではなく、落ち着いた物腰だ。
「靖兄さん」
「梓、もういい。この人の真剣な表情に嘘はないだろう」
靖の言葉に梓も黙り込む。佑貴の真摯な態度を見て、考えが揺らいだのだ。
「宮川さん、あの事件の時は私はもう菓子職人になっていました。だから茶会の日のことも、あなたや梓よりはっきり覚えています。本当に、残念な出来事でした」
職人らしい実直な物言いだ。当時のことを思い出しながら話す言葉には重みがある。
「高梨さん、ほんとうに申し訳ありませんでした。私ひとりが頭を下げたくらいでは足りないかもしれません。でも、謝罪させてください」
佑貴はまた深く頭を下げた。
「祖父は悔しかったと思いますが、ひと言の弁解もしなかった。祖母をあなたのおじい様、甲堂さんから奪った事実は消えないからすべて受け入れたんだと思います」
「それでも、我が家の罪です」
「あなたがそう思ってくれたなら、妹との関係は無駄ではなかったんでしょう」
「兄さん!」
梓は悲痛な声をあげたが、靖は佑貴に莉帆の居場所を話した。
「あの子たちは、京都です」
「京都?」
「あなたに会わせたくなくて、私たちが行かせたんです」
「そうでしたか」
「もう一度だけ、莉帆と話してください。最後だと思って」
やり直せるチャンスは一度だけだということだろう。
それでもいいと、佑貴は覚悟を決めた。
「ありがとうございます」