甘い恋をおしえて

すぐさま京都に向かいたかったが、仕事の処理だけはしておかなくてはならない。
佑貴は香風庵から会社に行くと、恐ろしいスピードで仕事を始めた。
数日の休みを取るために、明け方近くまで働き続けたのだ。

翌朝、一睡もせずに新幹線に乗った。
飛行機にしようかと思ったが、羽田までの時間と大阪空港から京都への交通手段を考えたら新幹線が早そうだ。

莉帆たちが京都香風庵にいるとわかっただけでも、佑貴の気分は落ち着いた。
京都の店は、白河通りから哲学の道に向かう途中辺りのはずだと記憶を辿る。

（やっと、莉帆に会える）

グリーン車に座ってから、少しの間だけ目を閉じて佑貴は莉帆を思った。
軽井沢で莉帆と会ってからの数日は、怒涛の日々だった。

以前と雰囲気が変わっていても、すぐに莉帆だとわかった。
あの時の驚きと、胸にこみあげてきた嬉しさ。
そして、息子。
小さな体でサッカー場を元気いっぱいに走っていた男の子。
佑貴に向けてバイバイと手を振る姿の愛らしさ。

佑貴と別れてから、莉帆がどんな気持ちで子どもを産んでくれていたのか想像することしかできない。

（莉帆……）

知らせてくれなかったと怒った自分が情けない。
佑貴には確証がないが、子どもを産んでくれたのは彼女の自分への『愛』だと信じたかった。

（今度こそ、離さない）