甘い恋をおしえて
茶室に莉帆が入ってきた。
サッカー場で見た装いとは真逆の、レースのブラウスに柔らかい素材のスカートをあわせている。
薄茶を点てるつもりなのか、菓子皿を運んできた。
佑貴の前に置いて一度下がると、盆手前の用意をしている。
建水を運んでから、風炉の鉄瓶の前に山道盆を置くと作法通りに茶を点てる。
静かな茶室には、袱紗を捌く音と茶筅の音しかない。
「お点前頂戴いたします」
何年ぶりだろうか。佑貴は莉帆の点てた茶をゆっくりと味わう。
もう忘れたと思っていた作法も、体が覚えていたのか自然に動けた。
薄茶を味わうと、頭の中がスッキリと冴えわたった気がする。
佑貴の口から、自然に言葉が出てきた。
「あの子は?」
「朝から職人さんが虫取りに連れて行ってくれているわ」
「息子の名前を教えてくれ」
「碧仁と、父が名前をつけてくれたの」
莉帆とも穏やかに会話できるのは、茶室の落ち着いた雰囲気のおかげだろうか。
「そうか……いい名だ」
何度も何度も、その名を呟く。