甘い恋をおしえて
「あなたは事実を知って、離婚を決めたのね?」
「ああ」
ようやく離婚の理由がわかっても、莉帆の胸には悩み続けていた日々の痛みが刻まれている。
すぐには整理しきれないことばかりだ。
俯いて膝の上に置いた手を見つめたまま、じっと考え続けた。
「あのまま知らなければと何度も思ったよ。でも事実を知った以上、君を自由にしようと思ったんだ」
「自由?」
「嘘をついてまで、君を宮川の家に縛りつけるなんてできなかった」
「そんな……」
それなら、その事実を正直に話して欲しかった。
二年以上暮らしていたのに、自分には話す価値もなかったのだろうか。
「私の気持ちは?」
「君の?」
怒りなのか悲しみなのか、膝の上の手が少し震えている。
このまま、好きな人になにも言えずに終わりたくないと莉帆は思った。
どうせ元に戻れないのなら、言いたいことを言ってしまおう。
俯くのをやめて、莉帆は顔をあげる。
「私がどんな気持ちであなたと結婚したか、考えてくれたことはなかったの?」
「君がいつも俺のことを一番に考えてくれていたのはわかっていた。とても嬉しかったよ」
予想外に優しい声で、佑貴がマンションでの暮らしの思い出を話してくれた。
「私は、あなたとの暮らしを大切にしたかった」
莉帆にとっては待ち望んでいた結婚生活だっただけに、佑貴がどう思っていたのか知りたかった。
「食事も、日々の暮らしも快適だった。せめて感謝の気持ちをと思ってプレゼントを贈っていたんだ」
「高価な宝石より、あなたの言葉が欲しかった」
宝石の煌めくアクセサリーをプレゼントされるより、『ありがとう』や『愛している』の言葉の方が何倍も幸せなのだ。
莉帆からの切ない告白だった。
「すまなかった。君に話しかけるのも、君に触れるのも迷惑じゃあないかと思っていた」