甘い恋をおしえて
新商品の売れ行きを見ようと店に出ていた莉帆は、いきなり千紘につかまってしまった。
「莉帆さん、覚えていてくださったのね」
「もちろんです。茶道教室ではお世話になりました」
千紘は子ども相手だというのに、結構厳しい指導をする人だった。
甘えていたらビシビシしごかれそうだったので、彼女の前でお点前する日は緊張していたのを覚えている。
「ゆっくりお話がしたいのよ、莉帆さんと」
莉帆は断れる立場ではない。
たまたま店には家族がひとりもいなかったので、莉帆は誰にも相談できないまま古参の店員に店を任せて千紘のあとに続いた。
店の前に止めてあった黒塗りのハイヤーに乗せられて、千紘に連れてこられたのはホテルのティールームだった。
「お茶に付き合ってくださらない?」
「は、はい」
千紘は秋口なのに早くも薄手の二ットワンピースを着ている。光沢のある糸はシルクだろうか。
濃いレンガ色だが光の加減でソフトな印象だ。
千紘は優雅な動きでソファーに腰掛けた。
それに比べて、店にいた莉帆は普段着に近い服装だ。
細身の黒いパンツにカットソーでは、さすがに外資系の大きなホテルにいるのは落ち着かない。
千紘はまったく気にしていないのか、メニューを広げて寛いでいる。
「なにになさる?」
「は、はい。ではコーヒーを」
ウエイターに告げてから、千紘はじっと莉帆を見つめた。
「いくつになられたの?」