甘い恋をおしえて
「あなたの力で香風庵を元のような店にしたくない?」
「私の?」
コクリと千紘は頷くが、莉帆にはさっぱり彼女の意図がわからない。
「あなたが私の希望を聞いてくれたら、丸光銀行が香風庵のメインバンクになってあげる」
「え?」
「私のお友達や家族にも、また香風庵を贔屓にするよう言ってあげる」
それは夢のような話だ。
千紘の父親、宮川甲堂に切り捨てられたままの縁を再びつなぐことができたら上流社会への足掛かりが出来る。
パーティーや格の高い茶会などで香風庵の菓子を味わってもらえたら、正しい評価をしてもらえるだろう。
それに丸光銀行から融資があれば、新しい機械の導入や全国各地への支店の建設にも踏み切れる。
莉帆はさらに気を引き締めようと、コーヒーをゆっくり飲みほした。
それから千紘に顔を向けて、一番の謎を問いかける。
「丸川様のご希望とはなんでしょう?」
「いやだ、丸川様なんて堅苦しいわ。子どもの頃のように千紘と呼んでちょうだい」
「千紘さん」
名前で呼びかけると、千紘はニッコリと笑った。
「あなたにしてほしいのはねえ……」