甘い恋をおしえて


不幸な今とは、佑貴であって莉帆ではない。
佑貴にとって、好きでもない妻と暮らすのは苦行だろう。
だが莉帆は初恋の人と結婚して、たとえ白い結婚だとしても佑貴の側にいられるのだ。

(我ながら不毛だわ……)

佑貴には愛されていないと知りながら、千紘の提案をのんで形だけの妻でいることを望んでしまったのだから。

丸川千紘の申し出に莉帆が頷いてしまってから、トントン拍子に話は進んだ。
猛反対されるかと思っていたが、以外に両家ともすんなりと受け入れたのだ。

佑貴の両親は、大賛成とは言わないが反対だとも言わない。
佑貴の母の寿江(としえ)は宮川家の長女だ。
次女の千紘は開放的な雰囲気だが寿江は無表情でなにを考えているのかわかりにくい。
婿を迎えて、由緒ある宮川家を守っている厳格な女性だ。
寿江にとって、とにかく嫁が来て後継者を産んでくれたら誰でもいいといったところだろうか。
婿養子の立場だからか、佑貴の父はなにひとつ口を出さなかった。

莉帆が一番驚いたのは、佑貴が縁談を受け入れたことだ。
実の母親が持ち込んだ縁談は断り続けたと聞いていたが、千紘が勧める莉帆との結婚話は拒否しなかったのだ。

(どうして?)

嬉しい反面、莉帆の胸には疑惑が渦巻いていた。

(どうして私との結婚を決めたのだろう)

佑貴なら、どこのご令嬢とでも結婚できるはずだ。
和菓子屋の次女など、あっさりと断られると思っていた。

(たぶん、千紘さんに言われるがまま受け入れちゃったのね)

おそらく断り続けるエネルギーすらもったいいなくて、莉帆で手を打ったのだろう。
莉帆にはそうとしか思えなかった。





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