甘い恋をおしえて
結婚式の準備は、主に千紘と莉帆が話し合って決めた。
佑貴は仕事を口実に打ち合わせをする日にホテルに顔を見せないし、佑貴の母の寿江は妹の千紘に丸投げだ。
母も息子も、まるで莉帆と顔を合わせるのを避けているとしか思えない。
「引き出物は漆器がいいかしらね」
千紘ひとりがはしゃいでいるが、それに付き合う莉帆の胃はキリキリと痛んでいた。
披露宴の食事、飲み物、司会との打ち合わせ……。
宮川家の体面を保つためにどう決めて行けばいいのか、莉帆も必死だった。
(せめて佑貴さんがなにかアドバイスしてくれてたら)
何度そう思ったことだろう。
だが、彼は忙しいからとハネムーンすら先送りすると言いだした。
千紘は猛烈に怒ったが、莉帆はすんなり受け入れた。
(これ、無理かも)
始めは香風庵のためだと思っていたが、莉帆にだって幼い頃に好きだった人との結婚には夢があった。
(夢は捨てよう)
愛されなくてもいい、彼の側にいられることだけで幸せだと思うことにしようと莉帆は決めた。
翌年の春、都内のホテルで豪華な結婚式を佑貴と莉帆は挙げた。