甘い恋をおしえて


女性社員の他愛ないおしゃべりなど、佑貴にはいつものことだ。
気がつけば、いつも自分に向かう不躾な視線や噂話に晒されてきた。

佑貴は小学生の頃から、なんとなく自分は注目される運命にあるのだと思っている。
大きな会社を持つ一族に生まれ、そのリーダーとなるように育てられてきた。
親の敷いたレールの上をひたすら走り続ける。そんな人生だと醒めてもいた。

小学生の頃は酷かった。
やれスポーツで体を鍛えろと言われ、茶道で精神を鍛えて礼儀作法を学べと言われる。

(今考えても無茶苦茶だな)

母親の言いなりになってもグレなかった子ども時代の自分を褒めてやりたいくらいだ。

(莉帆にあったのも、あの頃か)

嫌々通っていた茶道教室だったが、叔母の千紘の目が厳しいからサボることも出来なかった。
ただ、出される和菓子の美味しさに救われたようなものだ。
その和菓子を作っている店の子が莉帆だった。
初めて会った日、自分よりも幼いのに仕草の美しい子だと思った。
特に袱紗を扱う手は小さいのに迷いのない動きを見せて、見とれるほどだった。

『このお菓子、美味しいでしょ』

いつもそんな目をして佑貴を見つめていたっけ。
悪戯っぽい目をして、佑貴が和菓子を食べる様子をじっと見ていた。

(カワイイ子だな)

そんな印象を持っていたが、両家の大人たちには複雑な思いがあったようだ。

そして、あの『菓子鉢事件』が起こって両家の仲は拗れた。
莉帆とも宮川家で開かれた茶会以降、十年以上も会っていなかった。







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