甘い恋をおしえて
高梨家との縁は切れているはずなのに叔母の千紘が、突然に莉帆との縁談を持ってきた。
佑貴も過去の事情は詳しく知らないが、選ぶにしても高梨家は問題外のはずだ。
「向こうだって承諾しないだろう?」
無遠慮に叔母に問うと、高梨莉帆は承諾したという。
「店のためなら、あの子はなんでもするもの」
「脅したのか?」
「まさか。いい条件はいくつか提示してるけど」
「千紘叔母さん、あなたって人は……」
「これは、あなただけのことじゃないの。あなたのおばあ様や宮川家の存在にも関わってくる問題なのよ」
冷徹な表情で千紘は告げる。佑貴に有無を言わさぬ勢いだ。
「あなただって、子どもの頃は莉帆ちゃんのこと好きだったでしょ?」
「子どもの頃の話なんて、持ち出さないでくれ!」
千紘の表情から、どうやら我が家と高梨家の間にはなにか重大な秘密がありそうだと気がついた。
「例の茶会のことで、まだなにかあるのか?」
「それ以上はなにも聞かないで! あなたは黙って結婚を決めなさい」
千紘は佑貴に有無を言わせなかった。
千紘がそうせざるを得ない、宮川家にとって重大ななにかが隠されているのだと佑貴は諦める道を選んだ。
「わかった。だが、莉帆は嫌々受けたんだろう?」
「さあ?」
「それなら、俺になにも期待しないでくれ」
今後も母からうるさく言われるくらいなら、これが最善の道だと佑貴は莉帆との縁談を決めたのだ。
それから見合いという形で莉帆に会った。
子供の頃以来だったから、どんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
香風庵のために嫌々縁談を受けた相手に、笑顔を見せるのもおかしいだろう。
莉帆は幼いころの愛嬌のある顔から、すっかり大人の女性に成長していた。
蕾が花開くとはこういうことかと思った。
素直な笑顔は変わっていなかったが、佑貴への態度に媚びがないのが心地良い。
佑貴の肩書きに群がってくる女性と莉帆はまったく違っていた。
(これが普通の出会いなら)
出会って、恋をして、付き合い始める流れならどんなによかっただろう。
最初からボタンが掛け違ったままなのだ。
いきなりこの女性を妻にして子どもを作るなんて人としてどうなんだと、佑貴は迷い始めていた。