甘い恋をおしえて


だが、佑貴は深く考えるのをやめた。考えても無駄だと悟ったのだ。

我が家にとって、高梨莉帆との縁談は必然だから受け入れなくてはならない。
向こうは香風庵のため、こっちはなんだかわからないが宮川家の隠ぺいしている過去のためだ。
ふたりの間にあるのは家の利益だけで、お互いに愛がないなら結婚生活に夢や期待はいっさい持たないと決めた。

母からはすぐにでも子どもを作れと言われていたが、佑貴にはそのつもりはなかった。
祖父も父親も元気だし、自分はまだ若い。子どもは先で考えればいいじゃないかと開き直った。

(何年か形だけ夫婦として過ごして、キリのいいところで離婚しよう)

香風庵の商売が以前の勢いを取り戻した頃、慰謝料をタップリ払えば円満離婚できるだろう。
自分を愛してもいない女に子どもを産ませるのは、さすがに佑貴でも気が削がれた。
せめて莉帆が自分を好きでいてくれたらとも思ったが、彼女に尋ねることはしなかった。

(甘い期待をするのは無駄だ。相手は家のために嫁いでこようとしているだけだ)

結婚式も新居の準備もすべて叔母と莉帆に任せた。
自分が少しでも関われば、別れにくくなりそうだったのだ。

そして、華燭の典。

莉帆は美しかった。
白無垢姿での神前結婚式、真っ白なウエディングドレスでの披露宴。お色直しの金色(ゴールド)のドレス。

スラリとした肢体に、豊かな胸元。
幼い頃の面影を残した大きな目とぷっくりとした唇。

佑貴は妻に見とれていた。

(妻か……)

本来なら甘い時間になるはずの結婚式の夜。
佑貴が悪友たちにかなり飲まされてからホテルのスイートルームに帰ると、莉帆はいなかった。





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