甘い恋をおしえて
「あ、お義兄さん」
「アルカイックスマイルで固まっていると、逆に不気味だよ」
無遠慮に話しかけてきたのは、莉帆の義兄近藤要だ。
「失礼ね。上品さを追求したら、こういう顔になったのに」
「確かにお着物姿には似合っていますがねえ。僕は普段の君を知っているから」
「私の顔のことより、梓姉さんはどこかな?」
皮肉っぽい要の喋り方を無視して、一緒に来ている姉の居場所を聞いた。
さっきまでお茶席でお点前を披露していた姉も手が空いた頃だろう。
「もうこっちにくると思うよ」
「お義兄さん、今日のおすすめは?」
「なんか小料理屋みたいだから、その『おすすめ』っていうのやめて」
黙っていればそれなりにカッコいい義兄だが、喋ると軽い人だ。
かつては都市銀行で融資係を務めていたエリートだが、今は莉帆の実家『菓子処 香風庵』で経理を担当している。
「噂をすれば、梓だ」
莉帆たちに向かって、濃紺に銀のススキを描いた個性的な付け下げ姿の姉が歩いてきた。
姉の和服姿は優雅に見えるのに、裾さばきは大胆だ。
日本舞踊を習っていたからか、着物でもさっそうと歩く。
その姿は慣れない草履でチョコチョコ歩く若い女性に比べたらとても絵になっていた。