甘い恋をおしえて
「なにか急ぎの用事があるのか?」
「えっ?」
パンプスを履いていると、後ろから声をかけられた。
佑貴が莉帆を追ってきたようだ。
「いえ、特には……」
「なら、一緒に帰ろう」
「あなたは久しぶりの実家ですからゆっくりしたら?」
佑貴は返事をせずに自分も革靴を履くとさっさと玄関から出ていった。
「タクシーを呼んでいないのか?」
「え、ええ」
不機嫌そうに佑貴は手伝いに命じて宮川家の車を手配する。
「すみません」
誤りながらも、莉帆は釈然としなかった。どうして自分の方が謝ってしまうのか納得できない。
勝手に帰ると言いだしたのは佑貴ではないか。
それでも年に一度の年越しの時間に佑貴が自分の側にいてくれることが単純に嬉しかった。
(これが最後になるかもしれないもの)
莉帆は胸の中で新年の目標を決めた。
(今年中には夫の再婚相手を見つけて離婚しよう)
来年の今ごろ、おそらく自分は彼の側にいないのだから。