甘い恋をおしえて
宮川家の車はすぐに玄関に止まった。
運転手にマンションまでと佑貴が告げると、滑るように高級車は走り出した。
宮川家の黒塗りの車に乗るのは、莉帆は初めてだ。
後部座席にふたり並んで座ったが、ふと思えばこんな狭い空間にふたりだけでいるのも初めてかもしれない。
莉帆は急に落ち着かなくて、ドキドキとしてしまう。距離が近いというだけで狼狽えている自分に呆れさえした。
「なにか言われたか?」
唐突に佑貴が莉帆に尋ねてきた。
「なにかといいますと?」
「子どものことだ」
「ええ、いつも通りです」
淡々と答えながら、さっきまでの胸のときめきがスーッと冷めていくのがわかった。
わかっていたなら助けて欲しかった。
そう思うのはいけないことだろうか。
もう莉帆にはなにが正しくてなにが悪いのかわからなくなっていた。
「いつものことだから、もう慣れました」
「そうか」
それきり、佑貴はなにも言わなかった。
莉帆も口を閉じたままだったが、頭の中だけで彼へ言いたかった言葉を繰り返していた。
(そんなに私が嫌いなら、さっさと別れてください)