甘い恋をおしえて


車がマンションに着いた。
ふたり揃って部屋に帰るのも結婚以来初めてだ。

(お正月そうそう、初めのことばかりね)

新年を迎えて神社仏閣は混雑しているだろうが、この辺りでは人影はまばらな時間だ。
豪華なタワーマンションの最上階には、自分たちしか上がれないエレベーターまである。
なにもかも幸せな新婚夫婦のために準備されたものだ。

少し寒く感じて、莉帆はストールを体に巻き付けた。
隣りに立つ佑貴は手にカシミアのコートを持ってはいるがスーツのままだ。
夫の体温は高目なのかなと、莉帆は自分の知らないことを想像する。

(でも、もう知らなくていい。今年の春で三年が経つ)

急がなければと莉帆は思った。
もう数人の候補は選んでいるから、義母に報告してしまえばいいだけだ。
中々思いきれない自分が莉帆は情けなかった。

(好きな気持ちまで、失くしていないんだもの)

自分たちの部屋の階にエレベーターが止まった。

先に佑貴が降り、莉帆が続く。

ドアを開けてホテルのロビーかと思わせる広い玄関に入るのだが、佑貴がそこからじっと動かない。



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