甘い恋をおしえて
カフェの時間だけスケジュールを調整しようと、急いで秘書に電話で指示をする。
それから店に入ると、莉帆がいたので驚いた。
長い髪をスッキリとまとめて項を見せ、紺絣の着物姿だ。
(よく似合って、可愛い)
二十六にもなる女性に可愛いは言い過ぎかもしれないが、いつもキッチリした雰囲気の莉帆とは別人のようだった。
マンションではふたりとも淡々と生活しているから、接客している彼女の笑顔が眩しかった。
CEOの娘、キャサリンとはニューヨーク時代からの知り合いだからつい兄妹のように喋ってしまう。
(莉帆はどう思っているだろう。誤解したか?)
キャスはご機嫌でカフェを堪能し、和菓子まで欲しがっていた。
にこやかに応対してくれる莉帆を、どうして妻だと紹介できないのだろう。
頑なな自分自身に腹が立ったくらいだ。
(妻と呼ぶには、あまりに遠い存在だ)
まだ手を振れてもいない莉帆を妻と呼んでしまっていいのだろうか。
彼女は嫌がるのではないだろうか。
自分たちの関係は夫婦でも恋人でもない。まして友人でもないのだ。
そんな思いに囚われたまま、カフェを出た。