甘い恋をおしえて

「結婚の話を千紘叔母さんから言われた時、昔の茶会の話が出なかったか？」
「あの宮川邸でのお茶会ですか？」

気だるげな声で莉帆が聞き返す。そんな昔のことをと思ったのか、怪訝な声だ。

「ああ、そうだ」
「たしか、覚えているかって聞かれました」

莉帆と会話しながらも髪を梳き、首筋にキスをしてしまう。
まるで飢えた狼だと、佑貴は自分の行為に呆れた。

「なにを覚えているかって？」
「えっと……」

ポツポツと思い出しながら莉帆が話し始める。

宮川邸の裏庭のひと気のない場所だった。
佑貴の祖母の登美子は一心に、散り始めた加賀梅の古木の下にしゃがんで庭土を掘っていた。
なにをしているんだろうと不思議に思ったが、登美子から鬼気迫るものを感じて怖くなった莉帆はその場から離れた。

急いで茶室の方へ戻ろうとした時に、バッタリ千紘に会った。
茶道の師でもある千紘に、莉帆はなんとなく見たばかりのことを話した。

『登美子様が加賀梅の木の下で、土を掘り返していらっしゃいました。あれはなにをされているんでしょう？』

『梅の木の下……』

千紘の答えは、九歳の莉帆には素敵なファンタジーに思えた。

『来年も、再来年も、綺麗な梅が咲いて、たくさん実がなりますようにって我が家のおまじないなのよ』
『わあ～。ステキですね』
『だから、内緒にしてね。誰かに喋るとおまじないが効かなくなるから』

莉帆は、千紘に聞かれたことをそのまま佑貴に話した。

「おまじない？」
「たしか、千紘さんはそう言われました。最初に縁談の話を聞いた時に、覚えているかって尋ねられました」