甘い恋をおしえて
佑貴の脳裏に、いくつかの場面が浮かび上がってきた。
莉帆より二歳年上だった彼には、もう少し確かな記憶がある。
あの茶会のあと、たしか『菓子鉢事件』があったはずだ。
莉帆が見た祖母の姿。
掘り返された加賀梅の古木の根元。
そこに埋められたのは……。
莉帆の祖母の小夜子に恋をして、結婚の約束をしていた佑貴の祖父の甲堂。
小夜子が婚約破棄して、高梨充康と結婚した。
傷心の祖父に嫁いだのが登美子だ。
茶会の頃の甲堂は、小夜子が亡くなった知らせを受けて暗い顔をしていた時期だ。
その時の登美子の気持ちはどうだっただろうか。
莉帆をもう一度キュッと抱きしめて、佑貴はベッドを出た。
「昨夜さっさと帰ってしまったから、ちょっと屋敷に顔を出してくる」
「なら私も……」
「いや、君は体がキツイだろう。今日はゆっくりしていなさい」
「……はい」
莉帆は首筋まで真っ赤になっていた。
シャワーを浴びて着替えると、佑貴はマンションの地下駐車場に急いだ。
(まさか……)
愛車に飛び乗るようにして、佑貴は屋敷へ急いだ。
その裏庭の加賀梅の古木の根元を掘り返すために。