甘い恋をおしえて


明け方まで飲んで騒いでいたはずだから、元日の宮川邸では家族や親戚たちはまだ布団の中にいるのだろう。
屋敷の中はシンと静まりかえっていた。

正門から入ってガレージに車を止めると、庭師が置いているシャベルを取りに倉庫へ行く。

ぐるりと屋敷を回って、裏庭まで歩いた。
昼過ぎとはいえ、吐く息が白くなるほど冷えている。
佑貴は冷たく強張った手でショベルを握り、目指す木の下に立つ。

春先になれば、大きな古木には大輪の梅の花がこれでもかと咲きほこるだろう。
今はまだ固い蕾のままだ。

(おまじないか……)

まだ子どもだった莉帆に、千紘はうまいことを言って誤魔化したものだ。

佑貴はもう気がついていた。
梅の木の下には、おそらく欠けるか壊れるかした黄瀬戸の菓子鉢が埋められていたはずだ。

(おそらく、長年の恨み辛みで祖母がしでかしたんだな)

香風庵を(おとし)めるために、短気を起こしたのだろう。
祖父は祖母の企みだと知りながら、小夜子を取られた恨みを高梨充康にぶつけてしまったとした思えない。

(あさましいことだ)

佑貴はザクザクと硬い土を掘り続ける。
聡い千紘が気がついたなら、すぐに自分の手で掘り返して菓子鉢を処分しているだろう。
だが、どんな欠片でもいい証拠がほしい。

庭師が文句を言うかもしれないが、佑貴は木の周りを手当たり次第に掘り返した。
ひたすら、願いながら。

(俺の勘違いであってくれ、なにも出てこないでくれ!)

古木の周囲を掘っては埋めてを繰り返す。
どのくらい繰り返しただろうか、カチリと音がしてなにかがシャベルの先に触れた。
三センチもないくらいの陶器の欠片が目に入いる。

「あった……」

思わず声が出た。それは黄瀬戸の破片だ。



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