甘い恋をおしえて


***


その頃、莉帆もマンションでぼんやりと過ごしていた。

(どうしよう)

昨夜お酒を飲んだままになっていたリビングを片付けて、ため息をつく。

(……せっかく集めた資料のファイル)

佑貴の再婚相手にどうかと思われる女性のプロフイールだ。
パソコンへの保存ではなく、きっちり自分の手で仕上げていた。
みな由緒ある家柄の出で、可愛らしく上品な方ばかり。
姉夫婦も太鼓判を押してくれているし、莉帆もパーティー会場などで実物を見かけている。
それに加えて、宮川佑貴に興味を抱いていそうな女性を選んだつもりだ。
この中のひとりくらい、佑貴も義母の寿江も気に入るだろうと思っていた。

離婚に向けて準備万端だったのに、昨夜とうとう一線を越えてしまった。
ふたりとも酔っていたのかもしれない。
少なくとも、佑貴は酔っていたはずだ。莉帆はそう思いたい。

(きっとお酒の力で、嫌いなはずの私を抱けたんだ)

男性は愛が無くても女性が抱けると聞いたことがある。

(それだよね、きっと。好きだって言われなかったもの)

情熱的だったけれど、彼から愛の言葉は告げられなかった。
同意の上の行為だと確認されたのは覚えている。
義母の前で自分は大見栄を切ったのだ。今さら離婚の話を撤回できない。

(私が佑貴さんの子どもを産みますなんて言えないわ)

義母と宮川家のリビングで言い合った日が思い出された。

『私には佑貴さんの子は産めません!』

あの時はまだ処女だったから、佑貴への憤りもあって啖呵を切ったようなものだ。

『それならさっさと息子と別れてちょうだい!』
『もちろんです。ぜひ、そうさせてください!』




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