甘い恋をおしえて
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その頃、莉帆もマンションでぼんやりと過ごしていた。
(どうしよう)
昨夜お酒を飲んだままになっていたリビングを片付けて、ため息をつく。
(……せっかく集めた資料のファイル)
佑貴の再婚相手にどうかと思われる女性のプロフイールだ。
パソコンへの保存ではなく、きっちり自分の手で仕上げていた。
みな由緒ある家柄の出で、可愛らしく上品な方ばかり。
姉夫婦も太鼓判を押してくれているし、莉帆もパーティー会場などで実物を見かけている。
それに加えて、宮川佑貴に興味を抱いていそうな女性を選んだつもりだ。
この中のひとりくらい、佑貴も義母の寿江も気に入るだろうと思っていた。
離婚に向けて準備万端だったのに、昨夜とうとう一線を越えてしまった。
ふたりとも酔っていたのかもしれない。
少なくとも、佑貴は酔っていたはずだ。莉帆はそう思いたい。
(きっとお酒の力で、嫌いなはずの私を抱けたんだ)
男性は愛が無くても女性が抱けると聞いたことがある。
(それだよね、きっと。好きだって言われなかったもの)
情熱的だったけれど、彼から愛の言葉は告げられなかった。
同意の上の行為だと確認されたのは覚えている。
義母の前で自分は大見栄を切ったのだ。今さら離婚の話を撤回できない。
(私が佑貴さんの子どもを産みますなんて言えないわ)
義母と宮川家のリビングで言い合った日が思い出された。
『私には佑貴さんの子は産めません!』
あの時はまだ処女だったから、佑貴への憤りもあって啖呵を切ったようなものだ。
『それならさっさと息子と別れてちょうだい!』
『もちろんです。ぜひ、そうさせてください!』