甘い恋をおしえて
「庭で、これを見つけた」
「え?」
佑貴の手には、黄瀬戸の欠片があった。
「……それ、なに?」
「しらばっくれるんですか?」
千紘は黙り込んだ。都合が悪い時に千紘がよく使う手だ。
「おまじないとはよく言ったものですね」
佑貴の自虐的な話しぶりに千紘は青ざめた。
「あの子、思い出したの!」
狼狽える叔母を見て、佑貴は確信した。
「いいえ、莉帆は知りません」
「それじゃあ、どうして」
「すべて話してください。俺にはなにも隠さないでください」
冷淡に言いきる佑貴に、千紘も観念したのかポツポツと話した。
あの茶会の日、莉帆が裏庭から恐々と戻ってきた時に出会ったこと。
莉帆が登美子の姿を見たと聞いて、咄嗟におまじないだと誤魔化したこと。
自分も裏庭に行ってみたら、鬼気迫るくらいに興奮した母親がいたこと。
それから登美子が古木の下に埋めたものを見て確信した。
高梨充康に濡れ衣を着せたのは母。それに父も便乗したとしか思えない。
「ーー許されることだとは思っていないわ」
「もちろんです。なんでこんなこと思いついたんですか?」
千紘は頭痛がするのか、こめかみのあたりをグッと抑えた。
「だいぶ前だけど、京都香風庵のお菓子をお土産に頂いたの」
「ああ、莉帆の両親が経営している店ですね」
頷く千紘の顔色は悪い。何年もの間、後悔に苛まれてきたのだろう。
「美味しかったわ。加賀梅の風味を生かした和菓子」
「加賀梅?」
「そう。あの庭の古木は加賀梅だから、思い出しちゃったのよ」
遠い日の出来事だからと記憶の奥に押し込んでいた。自分でも忘れきっていたと千紘は言う。
だが、罪悪感は簡単に消えるものではない。美味しい味が記憶を呼び覚ましてしまった。
「だからですか?」
「私だって忘れたかったわ。自分の親が仕出かしたことなんて。でも、高梨家の皆さんは何年も頑張って美味しい和菓子を作り続けていらっしゃった」
黙り込む千紘を見ても、もう佑貴は怒りをぶつける気にはなれなかった。
「我が家の罪は許されないわ」
「それでも、莉帆を巻き込むなんて」
「でも、あなたとの結婚は私なりに考えた贖罪なのよ!」
ます経営面で香風庵を支える。
それから現場を見てしまった莉帆に、嫌なことを思い出さないくらい幸せになってもらいたいと考えた。
「あなたと莉帆さん、お似合いだと思ったし」
さすがに甥との縁談を勧める前に、莉帆に会いに行ったと言う。
美しくなっていたし、店のことをなによりも一番に考える心根も優しい。それに賢い。
「悪いけど、寿江姉さんがあなたに勧めるお嬢さんたちより群を抜いてステキだと思ったわ」
「莉帆が有能なのは認めます」
佑貴は言葉を選んでいるが、千紘は甥が莉帆を思っているのはわかっていた。
「ほかのお嬢さんたちは、あなた自身というより宮川家の後継者という立場が好きなのよ」
「叔母さん」
「だけど莉帆さんは、ものの本質を見極めてくれる。あなた自身を見てくれているはずよ」