甘い恋をおしえて
莉帆のところには、靖や梓から『たまには帰って顔を見せろ』と、しょっちゅう連絡があるのだ。
「急で申し訳ないんですが、遠征中の食事管理をお願いできませんか? もちろん、出張扱いにします」
「え~と、子どもを預かってくれるところが見つかれば大丈夫ですけれど」
「遠征では箱根に宿泊するんです。ある企業の保養所を借りるんですが、社員のための託児施設が利用できるって聞いてます」
「それでしたら大丈夫です。詳しい日程を教えてください」
キャンパス中に、五時を告げるチャイムが高らかに鳴り響いた。
「あっ、いけない! 五時」
「お迎えの時間ですね。大丈夫ですか?」
「申し訳ありません。ちょっと急がないと」
「なら、歩きながらざっと説明しますね」
譲二と並んで歩き出したら、ランニング中の野球部の学生が冷かしてくる。
「井村コーチ、お似合いですね!」
「これからデートですか」
「こら! 野球部の監督に言って、グランド百周させるぞ!」
譲二が笑いながら言うものだから、学生たちには堪えていない。
「すみません、あいつら悪気はないんです」
譲二の方が申し訳なさそうに莉帆に謝ってきた。
「私はいいんですが、監督にご迷惑でしょう」
「いえ、そんなことは!」
「うちの息子も可愛がっていただいてるから誤解されちゃってますね。すみません」
「迷惑なんてこと、絶対ありませんから!」
譲二はなぜか必死になって否定していた。