甘い恋をおしえて
「僕はホントに、なにも気にしていませんから。変わらずにこのままでいてください」
「ありがとうございます?」
莉帆は譲二となんだか噛み合わないなと思いながら、夏休みの遠征の話を続けた。
ふたりの足は、大学付属の保育園へ向かっていく。
大学のキャンパスの中にキリンの大きな看板があって、保育園の入り口だとすぐわかる目印になっている。
職員たちは子どもを預けるのに便利だし学生たちも実習できるので一石二鳥の役割といえそうだ。
莉帆は、ここにひとり息子を預けている。
キリンの門から建物を見れば、もう息子は通園バッグをかけて下駄箱で待ち構えていた。
今日は金曜日。お昼寝グッズを持ち帰る日だからそれなりに大荷物だ。
「ママ、おそい~」
息子は地団太を踏むように両足をバタつかせている。すでにご立腹のようだ。
「ゴメンね。遅くなっちゃて」
莉帆が慌てて声をかけたら、馴染の保育士が笑っている。
「大丈夫ですよ、お母さん。いつも通りの時間ですから」
「遅れたかと思っちゃいました」
「碧仁くん、さようなら。月曜日にね!」
「せんせ、サヨウナラ~」
同じ年頃の子より少し背の高い碧仁の名前は、京都にいる莉帆の父がつけた。
光り輝く宝石のように育てとの願いがこめられている。
「さ、帰ろ」
「うん、かーえろ」
キリンの入り口の近くでは、譲二が待ってくれていた。
「あ、じょうじだ!」
譲二の姿を見つけたとたん、碧仁は大喜びで駆け寄っていく。