甘い恋をおしえて
佑貴がそこまで非情な人だとは思えない。
(どうして?)
佑貴の口からちゃんと理由を聞きたかった。だが、莉帆の決断は早かった。
『別れたい』と言っている人に、無様に追いすがる気にはなれなかったのだ。
たとえ両家のためという名目上だけの結婚だったとしても、莉帆にもプライドはある。
結婚してからというもの、自分なりに佑貴に愛される努力をしたつもりだった。
愛されなくても、せめて妻としての存在を認めて欲しかった。
義兄の友人に頼んでまで夫の帰宅時間を気にしたりマンションを居心地よくしようと気を使ったりしてきたがすべて無駄だったのだ。
『わかりました』
莉帆は、すぐに離婚に同意した。そのとたん、弁護士は書類をテーブルに広げてサインを求めてきた。
(なんて用意がよくて事務的なんだろう)
わずかな時間でも夫婦として過ごしたのに、妻に対する思いやりの欠片もない。
『佑貴に伝えたいことはない?』
『なにも言いたくありません』
『莉帆さんの希望は?』
『ありません。佑貴さんからは、なにも欲しくありませんから』