甘い恋をおしえて
職員寮は2LDKでふたり暮らしには十分な広さだが、ダイニングキッチンの小さなテーブルを三人で囲むと急に狭く感じた。
今日はカレーとフルーツサラダ。
お子様メニューを並べたが、譲二は嬉しそうだ。
「ママ、おかわり!」
碧仁も食欲旺盛で、ひと皿目をぺろりと食べてしまった。
カレー皿も子供用からそろそろ卒業かもしれない。
「あ、はいはい」
「ハイはひとつ!」
息子が、生意気なことを言うようになってきた。
仕事の関係もあって、赤ちゃんの頃から碧仁の成長を見てきた譲二も笑っている。
「最近、碧仁の口が達者になったね」
「そうなんです。どこで覚えてくるんだか」
大人の会話には関心がないらしく、碧仁はフルーツサラダに夢中だ。
碧仁のサラダボウルには食べやすくカットしたバナナを乗せている。
「可愛い盛りだから、東京のご親戚が待ちかねているんでしょうね」
「ええ、今年のお正月以来だから早く会いたいって言ってます」
「ママ、いつ飛行機に乗るの?」
碧仁も、譲二と莉帆の会話が東京行きの話だとわかったようだ。
「東京の叔父ちゃんと叔母ちゃんに会いに行く日のこと?」
「うん!」
家族は碧仁が生まれてからは『宮崎は遠い。東京に帰って来い』と言い続けている。
だが、莉帆はここでの暮らしを大切にしたいと思っているし、佑貴のいる東京にも帰りたくなかった。
お互いに意見は平行線だったが、碧仁が二歳になってからはお正月と夏休みだけは家族に顔を見せるようになっていた。
「あのね、サッカー部のみんなと一緒に行くことになるかもしれないの。いいかな?」
譲二から聞いていた遠征を、碧仁にもわかるように話してみた。
サッカー部と一緒と聞いて、碧仁はテンションが高い。
「やったー! じょうじくんスキだし、みんなといっしょ、うれしいな!」
「こら、譲二君はダメよ。井村監督って呼ばなくちゃ」
碧仁が単純に合宿行きを喜んでくれたので、莉帆はホッとした。
この夏はサッカー部の合宿と、東京と京都に行くハードなスケジュールになりそうだ。