甘い恋をおしえて


莉帆の妊娠がわかったのは、宮崎の大学で働き始めてからだった。
赤ちゃんがお腹にいるとわかった時、莉帆はまっ先に夫にも知る権利があると思った。
とても電話やメールで伝える気にならなかったから、彼のマンションに手紙を送ったのだ。
だが、彼からの返事はなかった。

それから両親や兄弟に妊娠を知らせた。
佑貴には妊娠を無視されたと家族に伝えたら、莉帆がひとりで育てることに納得してくれた。

出産予定日は九月だった。
京都の母に助けてもらおうと思っていたが、秋の観光シーズンで店が忙しい時期だ。
見かねた梓と兄嫁の和歌が交代で産前産後の手伝いをかって出てくれたのだ。
それ以来、父親のいなくても寂しくないようにと家族みんなが碧仁を溺愛している。

莉帆は、結婚など二度とごめんだと思っている。
佑貴との結婚生活で男性に対して不信感を持ってしまったのだ。
好きだからといって相手に尽くしても、ダメな時はダメなのだ。それが三年足らずの結婚生活で得た教訓だ。
子どもの存在を無視したかつての夫、宮川佑貴に二度と連絡をとろうは思っていない。

(新しい奥様と宮川家の後継ぎを作るなら、この子の存在はきっと邪魔なのね)

靖や梓たちは碧仁をとても心配してくれているし、京都の両親からも『いつでもこっちにおいで』と言われている。
佑貴の助けがなくても、莉帆は息子を育てていく覚悟はできていた。



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