甘い恋をおしえて



佑貴は莉帆を黙って見送った。
聞きたいことは山ほどあったが、彼女との関係は自分が絶ち切ってしまったのだ。
こちらからは、かける言葉すらないと自重した。

彼女の姿が見えなくなって、スカウトマンとの話が一段落したのを見計らってから井村監督に声をかけた。
せめて監督と莉帆の関係だけでも知りたかったのだ。

「井村監督、彼女は?」
「大学の管理栄養士です。チームの栄養管理を任せているんですよ」

初めて聞く情報に、佑貴は驚いた。
離婚後、彼女は高梨家に戻って香風庵やカフェの仕事をしていると思い込んでいた。
まさか宮崎で働いていたとは考えもしなかった。
監督は独身だと聞いていたが、莉帆と結婚したのかもしれない。

「監督は彼女と結婚されたんですか? もしかしてお子さんが?」

プライベートに踏み込んだ質問だったが、譲二は照れ笑いしながら答えてくれた。

「いえいえ独身です。残念ですが、あの男の子は栄養士の高梨さんのお子さんなんですよ」

その『残念』という言葉に引っ掛かりを覚えながらも、佑貴は混乱していた。
莉帆と監督は結婚していないが、あの男の子は莉帆の息子だという。
ここからグランドは逆光になるので子どもの表情はよく見えなかった。
年齢は、幼稚園児くらいだろうか。
なぜか佑貴は、その子が気になって仕方がない。

(まさかあの男の子は、俺の?)

それからは、スポンサーとして同行してきたスカウトマンの話にも集中できない。
今の佑貴には、将来有望なサッカー選手を見つけるよりもわが子の存在を確かめることの方が重大だった。



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