甘い恋をおしえて
翌朝早くに、莉帆は箱根から東京に向かった。
研修センターまで迎えに来てくれたのは義兄の近藤要だ。
お土産用にと、香風庵の菓子箱を部員や監督のために運んできてくれたのだ。
「朝早くからありがとう、お義兄さん」
「一番に碧仁に会えるから役得だよ。靖義兄さんなんて、仕事があるのに自分が迎えに行くって煩かったんだからね」
香風庵のロゴが入った車が珍しくて気に入ったのか、碧仁はご機嫌だ。
一時間半のドライブだったが、飽きることなく楽しそうにしていた。
莉帆が結婚する前の日本橋の香風庵は、凝ってはいたが古い建物だった。
去年建て直されて、八階建てのビルに生まれ変わっている。
梓のセンスが生かされて、外観はモダンアートともいえるようなお洒落な雰囲気だ。
これこそ莉帆が佑貴と結婚して、丸三銀行の融資がスムーズに受けられた恩恵だろう。
工場は別に建設したから、ここでは主に新商品の開発と販売が中心だ。
ビルの一階は従来通りの店舗で、二階は莉帆が梓と始めた銀座の和カフェと同じに設えている。
三階には茶会用の茶室と広い座敷があり、茶道の愛好家には人気があった。
四階は新作の試作などを行う工房があり、靖はここで商品開発に明け暮れている。
五階から八階までは住居となっていて、靖と梓の家族が住んでいる。
「ただいま~」
暖簾をくぐって、碧仁の元気な声が店に響く。