甘い恋をおしえて
キチンと着こなしたスーツ姿で、髪の毛にも乱れがない。相変わらず、隙がないクールな表情だ。
莉帆は息を呑んだ。
彼の姿を見て、息が止まるかと思った。
(いけない、気を引き締めないと)
昔からそうだ。彼を見ただけで、莉帆は平静でいられなくなる。
今になって、よくわかった。
莉帆はまだ彼が好きで、彼のことをいつも思っている。忘れてはいないのだ。
(要義兄さんの言ったとおりだわ)
やはり佑貴は碧仁を見て、なにか気になっていたのだろう。
店にいた莉帆の姿を見つけたのか、迷わず声をかけてきた。
「莉帆、話がある」
怒っているのか、悲しんでいるのかわからない表情だ。
「すみません、忙しいので後にしていただけませんか?」
後から話すつもりなんてないのに、莉帆の口からスラスラと嘘が出てくる。
その時になって、待ちかねていたパタパタと碧仁が走る足音が店の奥から聞こえてきた。