甘い恋をおしえて
真実


***


佑貴は、偶然なのか必然なのか莉帆に会えたことを考えている。

箱根にたまたま出かけて、莉帆に会った。
ドイツチームのスカウトマンの案内は、友人に頼まれて急遽決まったものだった。
副社長の自分がわざわざ出向かなくてもよかったのだが、フランクフルト時代からの交流を大切にしたくて出かけたのだ。
サッカー場のスタンドで、まさか莉帆に会えるとは。
いや、二度と彼女には会ってはいけないはずだった。

いきなり離婚を告げて、どれだけ彼女を傷つけたことだろう。
しかも、初めて抱いた後に。

「莉帆」

目の前の彼女は別人かというくらい変わっていた。
短くなって明るい色に染めた髪、小麦色の肌。
ぴちっと身体のラインがわかる明るいオレンジ色のTシャツに白いパンツ。
日よけを兼ねているのか、薄手のパーカーをはおっている。
こんなカジュアルな莉帆を見たのは初めてだった。

どれだけ見た目が変わっていても、すぐに莉帆だとわかった。
理由はわからないが、自分にとってどんな莉帆も『莉帆』なのだ。

彼女は監督の井村とは親しそうだ。
井村の顔をみれば、彼が莉帆に好意を寄せているのはまるわかりだった。

その時、「ママ~、じょうじ~」という幼い声が聞こえた。

誰がママなんだと思って見渡したが、莉帆しか該当者はいない。

(まさか、莉帆と井村の子?)


< 90 / 114 >

この作品をシェア

pagetop