甘い恋をおしえて
「井村監督、彼女は?」
「大学の管理栄養士です。チームの栄養管理を任せているんですよ」
莉帆は高梨家に帰って香風庵やカフェの仕事をしているのではなかったのか。
まさか宮崎で働いていたとは考えもしなかった。
井村監督は独身だと聞いていたが、莉帆と結婚したのかもしれないと思うと気が気ではない。
「監督は彼女と結婚されたんですか? もしかしてお子さんが?」
「いえいえ独身です。残念ですが、あの男の子は栄養士の高梨さんのお子さんなんですよ」
あの子は俺の子だ。そう確信した。
(なぜ、莉帆は俺に知らせてこなかったんだ)
サッカー関係者の話が耳に残らないほど怒りが湧き上がってくる。
大事な宮川家の息子だ。
あの夜は避妊なんて考えてなかった。
きっとあの初めての夜に莉帆は妊娠したのだろう。
嬉しい気持ちもあふれてくる。わが子を抱きしめたくてたまらない。
子どものことを話したくて莉帆を探したが、翌朝には箱根を去っていた。
日向大学の合宿も最終日だから、監督以下全員宮崎に帰るらしい。
井村監督に莉帆のことを尋ねたら怪訝な顔をされた。
「元、妻です」
はっきりと告げると、監督は憮然とした。
怒りのこもった不機嫌な顔を隠しもしないで文句を言ってきた。
「彼女、ひとりで頑張っていましたよ。とても大変な思いをして子育てしてきたんです」
「二度と、彼女にそんな思いをさせませんから。これからは私が守ります」
大人げないかと思ったが、監督に言いきった。
これ以上監督から莉帆へ好意を向けられてはたまらないから釘を刺してしまった。
莉帆は実家に帰ったと聞いて、翌朝一番に香風庵を尋ねることにした。
(早く会いたい)
香風庵の開店時間に店に行ったら莉帆がいた。
そして、息子も。