甘い恋をおしえて
店の奥から、目の前にタタっと駆け寄ってきた男の子。
小さな子を滅多に見ることがないが、健康そうなしっかりした顔立ちの子だ。
まさに、自分のミニチュアを見ているようで胸の奥がギュッと絞られたように痛い。
話がしたいと伝えたが、莉帆には拒否された。
「私からは、あなたとお話しすることはなにもありません」
莉帆の義兄がヒョイ男の子を抱え上げた。そのまま男の子は去って行く。
佑貴の方に笑顔を向けている。そして、小さな手を振った。
「バイバ~イ」
子どもらしい言葉と仕草だが、可愛いと思う気持ちと切なさで心の中がかき乱される。
『嫌だ』と思った。
『バイバイ』が、男の子と二度と会えなくなる別れの言葉なのかと思うと苦しい。
だが、佑貴は立ちつくしてしまった。
店から出ていく莉帆と息子に、自分の立場では『行くな』とも言えない。
仕事なら思いのままになるというのに、人の心は掴めそうで掴めない。
佑貴はただ、虚しい気持ちを噛みしめた。