甘い恋をおしえて
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(俺がフランクフルトに行ってから手紙が届いたのかもしれない)
佑貴は離婚が成立してからのことを必死で思い出そうとしていた。
離婚の話はあっけないほど簡単に進み、数日で決着した。
それと同時くらいに、佑貴は部署を異動になったのだ。ヨーロッパ支局勤務だった。
すぐにフランクフルトに飛んだ。
(だから、正月からマンションには戻っていない)
莉帆との思い出があり過ぎたから帰りたくなかった。
ましてや、莉帆の名残のあるマンションを売ることをためらってしまった。
結局、先日帰国するまでそのままの状態にしておいたのだ。
宮川家の使用人に掃除を頼んでおいたから、時折は誰かが出入りしたはずだ。
(それなら、手紙は母のところか)
もし使用人が莉帆からの手紙を母に見せたならどうなったか、想像したくもなかった。
香風庵を出てから車を飛ばし続けていた佑貴は、実家へハンドルを切った。