甘い恋をおしえて
宮川邸に突然姿を見せた息子を見て、寿江は驚いていた。
「どうしたの、急に」
佑貴は離婚してからは、滅多に屋敷に帰らなくなっていた。
父親とは会社で会うし、その時に必要な話はしている。
婿養子という立場の父は、仕事はできるが宮川家のことは妻に任せきりだ。
佑貴の結婚にも離婚にも、まったく干渉してこなかった。
だから佑貴は面倒な寿江とは連絡も取らないし、いくら縁談を持ちかけても無視していたのだ。
「母さんに話があって」
「話って、今度のお見合いの話、受ける気になった?」
「まさか!」
莉帆のことが忘れられない佑貴は、再婚する気はまったくない。
短かったが充実していた日々は、宮川家の策略だと知ったことで汚されてしまったのだ。
母にもいい加減再婚は諦めてほしいのだが、何度も話を送りつけてくる。
酷い時は会社にまでやって来るのだ。
「まさかって、もう五年以上経つのよ。そろそろ再婚して後継ぎを……」
「母さん、よくそんなことが言えますね」
「え?」
寿江が目を丸くした。
ようやく、息子がかなり怒っていることに気がついたようだ。
「俺に子どもがいることを知っていたんでしょう」
寿江は黙り込んだ。
「都合が悪くなると黙るんですね。母さんも千紘叔母さんも」
口を閉ざせばなにをしても許されると思っているのか、母と叔母の姉妹はそこだけは似ている。
「佑貴、あれは……」
「可愛い、俺にそっくりな男の子です」
「は? あ、あなた、莉帆さんと会っていたの!」
「いいえ。偶然、会えたんです」