甘い恋をおしえて
まさに、あの偶然がなければ今も子どもの存在を知らずにいただろう。
「母さん、あなたのおかげで俺は大切なものをまた失うところでしたよ」
「大切って……あなただって莉帆さんを捨てたじゃない!」
寿江は黙っていられなくなったのか、責任を佑貴にも擦り付けてきた。
「捨てただなんて、とんでもない! 宮川の家に彼女を縛り付けるわけにいかないのは母さんもわかっていたでしょう」
菓子鉢を壊して香風庵のせいにして、梅の木の根元に埋めて隠した自分の母親のことを持ち出されると寿江は顔色を変えた。
「仕方ないでしょ。自分の親がとんでもないことをしでかしたんだから、私と千紘が償わなくちゃいけなかったのよ」
「償う?」
母の『償い』という言葉の軽さに、佑貴は頭が痛くなってきた。
親子とはいえ、どこまでいっても価値観の違いは埋められない。
「そうよ。この宮川家の嫁に迎えてあげて、店を援助してあげて……」
「やめてください!」
大きな声で怒鳴る佑貴に、寿江もその怒りの根深さを知ったようだ。
「佑貴」