大嫌いの先にあるもの
「春音、何を怒ってるんだ?」

「怒ってないよ。妹と兄の距離を作ってるだけ」

妹と兄の距離では手をつないだらいけないんだろうか。
僕は干渉し過ぎてるんだろうか。

春音の横顔を見ると今にも泣き出しそうな顔をしてた。
どうしたんだろう。やっぱり先ほどから様子がおかしい。

「春音、大丈夫か?」

思わず春音の頬に触れると、「触らないでっ」と春音が僕の手を振り払った。
やっぱり春音は怒ってる。それも物凄く。

「帰る」

春音はいきなりそう言って背を向けた。

まだ三田村夫人に紹介してないし、こちらの用事も終わってない。

「待ちなさい」

春音を追いかけた。
僕の言葉を無視するように早足で春音は行ってしまう。

「春音、待って」

春音の細い肩を掴んでこちらに振り向かせると、焦げ茶色の瞳には大粒の涙が浮かんでいる。

なんで泣いてるんだ……。
泣かせるような事を僕がしたのか。

「これ以上黒須とは一緒にいられない」

涙交じりの声で春音が言った。弱々しい声が胸に突き刺さる。
理由はわらないけど、春音は僕のせいで泣いてる。そう思ったらこれ以上引き止められない。

肩から手を離すと、春音は背を向けて走り出した。
< 112 / 360 >

この作品をシェア

pagetop