大嫌いの先にあるもの
「パーティーはどうでした?」
迎えの車に乗り込むと、相沢に聞かれた。
首元のタイを緩めながら息をついた。
もう夕方だ。
三田村会長に引き止められ最後までパーティーにいたが、春音が帰ったあとはあまり楽しくなかった。
「予定通り三田村会長に裏の人間を紹介してもらったよ。犯人捜しに協力してくれると言っていた」
「見返りは?」
「裏資金の洗浄をして欲しいそうだ」
「マネーロンダリングですか」
相沢が苦笑いを浮かべた。
「手配は私がしましょう」
「いや、僕がする。相沢に危ない事はさせられない」
「私は黒須の部下ですよ。何でも命じて下さい」
「部下じゃない。相沢は僕のビジネスパートナーだって何度言わせるんだ。それより春音はどうした?ちゃんと送り届けたか?」
春音の事がずっと胸にひっかかってる。僕を責めるような泣き顔が頭から離れない。せっかく今日は途中まで春音といい感じだったのに、最後は険悪な関係に戻ってしまった。
どうしてかいつも春音の地雷を踏んでしまう。
注意しているつもりなのに。
「一人で帰りたいと言うので、ハイヤーに乗せました。さっき自宅に着いたと運転手から連絡がありました」
「そうか」
「お姫様にまた嫌われたんですか?」
ストレートな相沢の発言に苦笑が浮かんだ。
その通り。また春音に嫌われた。これ以上嫌われたくないのに。
黙ったままため息をつくと、相沢が何かを察するように笑みを浮かべた。
「相変わらず黒須は女心がわかってないという事ですね」
馬鹿にしたような言い方だ。美香と交際を始める前も同じような事を言われた。
「相沢は春音の気持ちがわかるって言うのか?」
「もちろん」
自信満々に相沢は頷いた。
きっとハッタリだ。相沢に春音の気持ちがわかる訳ない。彼女はとっても複雑なんだ。
「春音の何がわかるって言うんだ」
足を組み替えて相沢を見ると「わからない方が不思議なんですけどね」と言って笑い出した。
一人だけ正解を知ってるような相沢の態度に腹が立つ。僕に春音の何がわかってないっていうんだ。