大嫌いの先にあるもの
水曜日も教室に現れた黒須は黒一色のスーツを着てた。表情もなんか怖い。近寄りがたい雰囲気が出てる。

しかし、今回は黒須を気にしてる場合じゃない。もう失敗はしたくない。黒須にこれ以上、バカだと思われる訳にはいかない。

「では、始めて下さい」
黒板に問題を書き終わった黒須が言った。今回は選択問題。3問の中の1つを論じればいい。

(1)ロングタームキャピタルマネジメントが行っていた運用方法を論じなさい。

(2)リーマンショックが起きた要因について論じなさい。

(3)プラザ合意では具体的にどんな事が行われ、どんな影響が起きたか論じなさい。

(1)はノーベル経済学賞を取った人も運用に参加してたヘッジファンドの事だけど、運用方法なんて突っ込んだ話は出来ないな。

(2)の要因は説明が難しい。低所得者向けのローンがなんか原因の一つだったんだよな。でも、他にも要因があってまとめられない。とすると、やっぱり(3)のプラザ合意……。

確か、高くなり過ぎた米ドルのレートを修正する為に、ニューヨークのプラザホテルで秘密裏に話し合われたやつだよね。えーと、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの財務大臣と中央銀行総裁が集まったんだ。

シャーペンを持って、答案用紙に向かった。カリカリと文字を書く音が教室中から響いてる。圧倒されそうになるけど、知識を振り絞ってとにかく書いた。考え過ぎて頭の奥が熱い。今回は絶対に合格点を出して見せる。


「終わりです」

その声にハッとした。顔を上げると横に黒須が立ってた。
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