大嫌いの先にあるもの
「春音ちゃん、実家は?都内なんでしょ?」

滝本さんがお弁当箱を広げながらこっちを見た。

けばけばしい化粧をした母の顔が浮かんだ。帰ったらシンデレラのようにこき使われる。絶対にあの人とは暮らしたくない。

「実家はちょっと戻れないんです」

「じゃあ、お友達は?」

ゆかは彼氏とロサンゼルスに旅行中だし、若菜は夏休みの語学研修でカナダに行ってる。

「仲のいい友達は今、旅行中で」

「夏休みだもんね。他に頼れる人いないの?」

黒須の顔が浮かんだ。

いや、ダメだ。黒須と一緒に暮らすなんてありえない。

「うん?春音ちゃん、顔赤いよ。もしかして男の人が浮かんだ?」

「い、いえ」

「誤魔化してもわかるわよ。意中の彼が浮かんだんでしょ?」

急に滝本さんのテンションが上がった。

「彼の所に行けばいいじゃない。ラブコメだとよくある展開よね。それで一緒に暮らしてる間にラブラブな関係になったりするのよね」

黒須とラブラブな関係か……。
ベッドで黒須と抱き合う姿が浮かんだ。

わっ、ダメ。その妄想!

「そ、そんな人いませんから」

「本当に?春音ちゃん、顔赤いよ」

「からかわないで下さい。それ所じゃないんです」

「そうだった。ごめんね」
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