大嫌いの先にあるもの
誰もいない更衣室に入るとため息が出た。

一人になった途端、気が抜けた。
抑えていた弱い感情が溢れて、灰色のロッカーが滲んで見えた。

今日はもう疲れた。

朝からバイトでクタクタ。どっちも立ち仕事だから足の裏はじんじんするし、背中と肩が重たい感じがする。大きな石が乗っているみたい。

早く家に帰って何も考えずぼーっとしていたい。

でも、そんな事をしている暇はない。帰ったら不動産屋のサイトをチェックして、予算内で住める所を見つけなきゃ。

引っ越すって事は電気とか水道とか、ガスとかも止める手続きをしなきゃいけないよね。住所も変わるから郵便物の転送の手続きもしなきゃだ。でも、どこに転送するの?行く当てもないのに。

月曜日になったらアパートを追い出されて、本当に公園にいるかもしれない。
ため息しか出ないや。今日がどん底のように思える。

実家を出た時は一人で生きていくって決めたのに、頼れる所がないと思ったら心細くて仕方ない。弱いな、私。

コンコンとドアをノックする音がした。
慌てて滲んだ涙を手で拭った。

「立花さん、いますか?」

ドア越しに相沢さんの声が聞えた。

「あっ、はい」

「着替え終わったら事務所の方に来て下さい。新しいシフト表をお渡しします」
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