大嫌いの先にあるもの
言葉を挟んで来たのは黒須だった。

威圧するような視線でおじさんを睨んでいた。黒須のそんな怖い顔を初めて見る。
 
美香ちゃんの死について感情的な言葉をぶつけた時だってそんな表情は浮かべなかった。

黒須の迫力ある表情に背筋がゾクゾクとする。

「な、何だよ、あんたは」

おじさんはそう言い返すが、黒須に睨まれ明らかに怯んでる。
バカにしたように私の事を見ていたのに、余裕のない表情を浮かべている。
けっこう、このおじさんは小心者かもしれない。

「迷惑だと言ってるんです。警察呼びましょうか。延滞料金を払わないなんて犯罪ですよ」

黒須がスマホを取り出して、耳に当てると「は、払います」と言って、おじさんは五千円札をトレーに置いた。

「では、まずは延滞の処理をさせていただきます」

釣り銭とレシートをトレーに置くと、それを乱暴に掴んでおじさんは逃げるように店を出て行った。

会員証と新規に借りようとしていたアニメDVDが残ってしまう。
レジ前にはおじさんの子どもらしき小学生がまだいる。

「これ、お父さんに渡してくれる?」
会員証を差し出すと、「お父さんじゃない。知らない人」だと言われびっくりした。

てっきり親子かと思った。よく考えれば子ども連れの人が子どもに軽蔑されるような行動をするはずはない。

「そそっかしいな」

カウンター越しに立つ黒須が言った。
その通り、そそっかしい。でも、認めたくない。

「なんでいるんですか?」
「もちろんDVDを借りに来たんだよ。会員証作りたいんだけど」

黒須が微笑んだ。
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