大嫌いの先にあるもの
頭が重い。喉が渇いた。それにいろいろとなんか不快だ。
瞼を開けると、春音の寝顔が飛び込んで来た。
これはどういう状況だ?

薄暗い部屋を見渡すと、見慣れた家具があり、僕のダブルベッドがあり、ここが自分の寝室である事がわかる。そして再び右隣を見ると春音がすやすやと安らかな顔で寝ている。

どうして春音と寝ているんだ?
たしか、Blue&Devilで飲んでいたはずだったが……。ウィスキーのボトルを一本空けて、それからどうしたんだろう?ダメだ。思い出せない。

しかし、こうして自分の部屋で寝ているって事は宮本君あたりがここまで運んでくれたんだろうな。バーの上に住むのはこういう時は便利だな。

ところで今は何時だろう?
遮光カーテンが閉まっていて、夜中なのか、朝なのかわからない。

「うーん、黒須……」

むにゃむにゃと春音が喋った。

「春音、起きてるのか?」

返事がない。寝言か。

今の“黒須”って言い方、ちょっと可愛かったな。

サラサラの黒髪を撫でると、「うーん」と春音がこっちに向かって両腕を伸ばして来た。次の瞬間、抱き着かれた。さらに春音は気持ち良さそうにすりすりと胸に頭を乗せて来た。

うっ。頭の重みが苦しい……。

とにかく、頭だけは胸から降ろそう。
そっと春音の頭を掴んで、ベッドに降ろした。

すると今度は春音の両腕が僕の後頭部に伸びて、抱きしめられた。
都合、春音に覆いかぶさるような態勢になる。頭は春音の胸の上だ。

春音に体重をかけないように胸から頭を上げるが、右肘だけで体全体を支えるこの態勢は辛い。すぐに首が痛くなるし、右肘も限界が近そうだ。春音の腕に力が入っていて抜け出す事も出来ない。

春音を起こせばいいが、この態勢で声を掛けると、僕が襲ったみたいだ。そんな誤解はされたくない。

困った……。
どうやって抜け出そうか。
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